労働者のための保険として、
労働保険があります。
労働保険とは、労災保険と
雇用保険とを総称した言葉です。
この記事では、雇用保険の役割や、
支払われるさまざまな給付について
解説していきたいと思います。
雇用保険とは
事業主は雇用保険法に基づき、
事業主や労働者の意思に関係なく、
基準を満たす労働者を
雇用保険に加入させる必要があります。
雇用保険の目的
雇用保険の目的は
シンプルに言うと、
仕事がなくなったときに備える
ということです。
失業者の生活の安定を図る
フルタイムもしくはそれに近い長時間働いて
一定の収入を得て生計を立てている人が
失業して給与が得られなくなることによる
経済的負担から救済するため、
失業期間中にも
一定額の給付をすることで、
失業者の生活の安定を図ります。
失業者の再就職を促す
また、新しく就職先を探すにしても、
服装の準備や交通費などの出費や、
新たに資格の取得など、
就職活動をするにも
お金がかかります。
そこで、再就職に向けた
スキル獲得やキャリア形成のための
教育訓練給付や、
安定した職業への早期再就職を
支援するために支払われる
就職促進給付など
一定額の援助をして
再就職を促進します。
雇用保険の加入条件
雇用保険の加入企業
労働者の権利を守るための
重要な制度であることから、
雇用保険は日本政府が管掌する
強制保険制度であり、
労働者を雇用する企業や団体には
原則として強制的に適用されます。
労働者を一人でも雇用する事業所は、
原則として雇用保険加入が
義務付けられています。
一部の農林水産業を営む個人経営の事業は、
常時雇用する労働者が5人未満の場合、
「暫定任意適用事業」として
任意加入となります。
その場合、その事業所の
2分の1以上の労働者が
雇用保険の加入を希望する場合には、
労働局に任意加入の申請をしなければ
ならないことになっています。
加入できる労働者
失業時の生活の安定のために
必要な雇用保険ですが、
全ての労働者に加入資格があるわけではなく、
下記3つの条件を満たす必要があります。
- 勤務開始時から最低31日間以上働く見込みがあること
- 1週間あたり20時間以上働いていること
- 学生ではないこと(夜間や定時制課程の学生などを除く)
加入対象条件に該当していれば、
正社員や契約社員、アルバイトなどの
雇用形態には関係なく
雇用保険への加入が義務付けられます。
1つずつ解説します。
勤務開始時から最低31日間以上働く見込みがあること
この「31日間以上働く見込み」というものは
明確に「31日間以上雇用が継続しない」場合以外は
すべてが該当します。
雇用契約に31日未満で雇い止めすることが
明示されていないときは、
「31日間以上働く見込み」が
あることになります。
また、労働者が実際に
31日以上雇用された実績がある場合も
適用されます。
1週間あたり20時間以上働いていること
これは「所定労働時間」が
週20時間以上ということを意味するので、
一時的に週20時間以上働いたことが
あったとしても、
契約上の所定労働時間が
週20時間未満となっている場合は、
この要件時間を満たしません。
あくまでも会社と契約した
「所定勤務時間」が条件になるので、
下記の場合は加入対象から外れます。
- 途中で契約を変更して
週20時間未満の勤務になった - いつもは週10時間程度だが
忙しい時期は週20時間以上働く
学生ではないこと(夜間や定時制課程の学生などを除く)
基本的に学生や顧問などは、
雇用保険に加入することができません。
本分は「学業」であるとされる
昼間学生は雇用保険法では
労働者として扱われないためです。
しかし、夜間大学や定時制高校、
通信制の教育を受けている者は、
通常、継続的に雇用され、
一般の労働者と同様に勤務していると
みなされるので、
要件に該当すれば
対象となります。
昼間学生でも雇用保険の対象となる例
ただし、昼間学生であっても
- 卒業見込証明書を有している
- 就労している企業に内定をもらって
卒業前から勤務している - 卒業後も引き続き同じ企業で勤務する
という場合は雇用保険の
加入対象となります。
雇用保険で受けられる給付
雇用保険の給付は目的に応じて
さまざまなものがあります。
求職者給付
一般(65歳未満)向け求職者給付
いわゆる失業手当です。
失業時や、再就職を目指して就職活動をする
求職者に対して支払われます。
- 基本手当
- 技能習得手当(受講手当、通所手当)
- 寄宿手当
- 傷病手当
高年齢求職者給付
65歳以上の被保険者が失業した場合に、
被保険者であった期間に応じて
「高年齢求職者給付金」が支給されます。
基本手当とは異なり、
被保険者期間が1年以上あった場合には
基本手当相当額の50日分、
1年未満の場合には
基本手当相当額の30日分が、
基本手当に代えて
一時金で支給されるのが特徴です。
その他の求職者給付
季節的に雇用される労働者や
日雇の労働者に対して
支給されます。
- 特例一時金
(短期雇用特例非保険者) - 日雇労働求職者給付金
(日雇労働被保険者)
就職促進給付
求職中の方が安定した職業へ
早期再就職を図ることを目的としたもので
下記のものがあります。
- 再就職手当
- 就業促進定着手当
- 就業手当
- 常用就職支度手当
例えば、
失業中に受給した基本手当の
給付日数に一定以上の残日数がある方が
再就職した場合
再就職手当などの
給付金が支払われます。
教育訓練給付
教育訓練給付とは、
指定の教育訓練講座を
自己負担で受講したときに、
受講料や入学料などの
経費の一部を支給してくれるものです。
教育訓練講座には、
看護師や保育士、
美容師、調理師などの
専門性の高い資格を
取得するための講座もあります。
雇用継続給付
雇用継続給付とは、
労働者が特定の理由で
雇用継続が困難な事情が発生した場合に、
労働者の生活と雇用を
守るための制度です。
- 高年齢雇用継続給付
- 介護休業給付
高年齢雇用継続給付とは、
雇用保険の被保険者であった期間が
5年以上ある60歳以上65歳未満の
一般被保険者について、
60歳以降の賃金が60歳時点に比べて
75%未満に低下した状態で
労働を続ける場合に支給されます。
育児休業給付
育児休業給付金とは、
雇用保険の被保険者が
育児休業中に
給与が一定以上支払われなくなった場合、
雇用保険から給付される給付金です。
育児をする労働者の
職業生活の円滑な継続を目的に
制定されました。
子どもが1歳(支給対象期間延長要件に
該当する場合は1歳6カ月、または2歳)まで
給付を受けられます。
雇用継続給付と同様の目的がある
といってよいでしょう。
雇用保険料について
雇用保険料の支払いは
事業者と従業員の双方が負担しますが、
従業員が負担する金額は
労使折半ではなく、
事業者が多く支払うように
なっています。
雇用保険料の対象となる賃金には、
従業員に毎月支払われる
給与の金額だけではなく、
賞与額にも適用されます。
保険料率の変動に注意
雇用保険料率は、
失業保険の受給者数や
積立金の残高に応じて
毎年見直しが行われます。
保険料についてはこちらの記事で
詳しく書いています。
まとめ
雇用保険は、
労働者の生活の安定と
再就職の促進を図るための
重要な制度です。
強制適用事業所の場合は、
国籍、年齢、雇用形態、報酬額などを問わず
従業員が加入条件を満たしていれば、
加入する義務があります。
強制適用事業所については
こちらの記事もご参照ください。
事業者は忘れずに手続きしましょう。